ブチャの大量虐殺・実行部隊に生じた心理的効果

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ロシア軍による民間人の虐殺には、実行した部隊の心理に「ミルグラム効果」が関係していると推測される。ミルグラム効果はどのような心理的傾向なのか、なぜそのような傾向が生じるのか。

 

「ミルグラム効果」(Milgram’s  effect)

 

ミルグラム効果とは                                  人はある一定の条件下で、権威者に命令されると非人道的な行為でも平然と行うようになるという傾向のこと。                                    米国イェール大学の心理学者、スタンリー・ミルグラムが行ったミルグラム実験に由来するが、別名「アイヒマン実験」とも呼ばれている。ナチスドイツのアイヒマンが、自分は命令に従ってユダヤ人を虐殺したのだと主張したことから、権威者による命令が個人を従属させると、殺人のような非人道的な行為でも行うようになるのか、ということを試した実験である。

 

ミルグラム効果では、いわゆる閉鎖的環境で生じやすいといわれている。
あらゆる状況で起こるものではなく、閉鎖的な環境、特定の状況下、権威者や支配者、目上の者などに命じられることで、生じる傾向である。                          戦争は軍隊という厳しい規律と監視のある閉鎖的な環境であり、逆らうことができない階級、ヒエラルキーと絶対的権力者が存在する環境である。

ロシア軍が撤収した後のキーウ近郊ブチャでは、何百人という民間人の遺体が発見された。

 

この効果が人間にどれほど酷いことをさせてしまうのか、今、世界中が目にしている。

 

 

非人道的な行為を行う人間は、どこにでもいる平凡でごく普通の人間である。

ブチャの殺害を主導した実行部隊があり、米情報機関は特定を進めていると、米国CNNは報じた。だが民間人が殺害されたり、暴行や強姦されているのは、ブチャだけではない。実行部隊だけが、特殊ということではないのだ。 

 

人はある一定の状況下で、権力者が命じれば、服従してしまう。
それが国のため、世界のため、人類のためと権力者に言われれば、ますます服従することになる。

ロシア系住民を守る、ネオナチからウクラナイを解放する、プーチン氏が掲げたウクライナへの侵攻理由があれば、なおさら服従しやすい。自分の行動に大義名分ができることになる。

 

服従する理由は「エージェント状態」にもある。

ミルグラム効果が生じると、人は自分独自の目的に従って行動しているとは考えなくなり、権威者の願望を実行する代理人=エージェントだと考えるようになる。                             そのような状態になるため、服従してしまうのだとミルグラムは『服従の心理』(河出書房)で説明している。これにより非人道的行為の責任は、自分ではなく、命令を下した権威者にあると考えられるため、服従しやすくなるといわれる。

 

そしてマリウポリ。    

プーチン氏は21日、ロシア軍が包囲するウクライナのマリウポリについて完全に掌握したとして、事実上の制圧を宣言した。

だが、ウクライナ内務省の軍事組織「アゾフ連隊」はマリウポリのアゾフスターリ製鉄所に籠城したまま抗戦を続けている。この製鉄所には1000人以上の民間人も避難しているという。

突入する掃討作戦は中止となったが、プーチン氏は製鉄所を封鎖するように命じた。
「ハエも通らぬように」と。

“ハエ”という言葉は単なる例えか。その表現に、プーチン氏がロシア側に避難しないウクライナ人、投降しないウクライナ兵士をどう思っているのかを想像するのが怖くなる。

25日、ロシア国防省は、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所周辺で戦闘を停止すると表明したが、爆撃は続いていた。 

国連のブテーレス事務総長に、民間人の避難について原則合意したと述べたというプーチン氏。

どんな状況においても、殺されていい人間などいない。
ミルグラム効果による非人道的な行為が、これ以上、行われないことを祈るだけだ。

 

 

 

 

 

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この記事を書いた人

臨床心理士、文学修士
経営心理コンサルタント、商学博士
コミュニケーションやボディランゲージの分析、バイアスに関するコンサルティングなどを行っています。
話題の出来事や時事問題から、注目されている人物、ドラマ、映画まで幅広いテーマについて、心理学や行動経済学、リスクマネジメントなどを用いて、独自の視点で分析する記事を書いています。

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