ここでは記憶に関連する認知バイアスと、その意味についてまとめている。
例えば文章などを書く時、心理学の専門用語を使って書いてみたいと思うことがあるだろう。ただ心理学の中でも、臨床心理学やカウンセリングに関する専門用語は、心の問題や性格について説明しているもののあり、よく知らないで使ってしまうと誤解を招いてしまうリスクもあるので注意が必要。だがバイアスは、そのような専門用語より用いやすい用語である。
バイアスは、知覚や思考の偏り、意思決定などにおけるその人物や組織などの心理的な傾向や現などである。バイアスは本人が気がつかないものから、自分でわかっているもの、はたから見ればすぐにわかるものまで様々あるが、どんなバイアスが生じているのかは、その人物の言動を観察したり、集団や組織の行動などを見たり聞いたりして分析し、判断することになる。
バイアスの中でも、記憶に関するものは数が多い。
例えば、ある俳優の顔が思い浮かぶのに、名前が出てこない。もうちょっとで思い出せそうで、喉まで出かかっているのに出てこないという経験はないだろうか。
これは「舌先現象」というバイアスである。
「デジャブ」という言葉を聞いたことがあると思う。実際に体験したことがないのに、前にも見たことがあるような、経験したことがあるような気がすることで、これもバイアスの1つである。
場面や状況、情報の提示方法や、その時の感情などによって、定義されているバイアスの種類は違う。書こうとしているテーマにぴったり合うバイアスを探すことが肝心だ。
心理学用語については、記憶に関する心理学用語を参照してほしい。
記憶に関するバイアスには、以下のようなものがある。
ピーク・エンドの法則
記憶のバイアスでわかりやすいのは、このピーク・エンドの法則だろう。「終わりよければ全てよし」という諺にもあるが、人はその時の経験が良かったか、悪かったかよりも、経験としてのピーク時にどうだったか、それがどう終わったかによって、経験したことを判断し評価しやすいという傾向のことだ。 刑事ドラマやミステリー映画を例にすると、途中まではとても面白い展開で夢中になってたのに、最後の結末がこれで終わり?という期待はずれだったり、ありふれた謎だったりすると、途端にそのドラマや映画の評価や印象が低くなるという場合も、この法則が関係している。
辛い、悲しい体験だけでなく、楽しい経験も、ピーク時と最後に与えられた印象によって評価されてしまう。
プライミング効果
この効果は、事前に見聞きしていたり、経験した物事や情報によって、別の事柄を思い出しやすくなったり、思い出しにくくなったりする現象で、その後の判断や行動が影響を受けやすくなる。 ある物事に関する情報に接触する回数や量が多くなればなるほど、思い出すことが多くなり、感情が動かされるといわれている。接触する回数の多い情報、人物には親しみを持ちやすくなるという単純接触効果と類似した部分がある。
ツァイガルニク効果
人は何かを達成したり、やり終えた事は忘れてしまうが、達成できず中途半端に終わったことはよく覚えているという現象のこと。途中で止めてしまうと続きが気になり、達成できた、やり終えたという満足感を感じた課題よりも、達成できなかった事や途中でやめてしまった課題の方をよく覚えているという傾向である。
皮肉なリバウンド効果
忘れよう忘れようとすればするほど、思い出さないようにしようと思うほど、頭から離れなくなってしまうという経験はないだろうか。それがこの皮肉なリバウンド効果になる。ある物事や人物、映像、音、言葉など、思い出さないようにすればするほど、かえってそれを意識してしまい、思い出してしまうという現象だ。リアクタンスと似ており、思考を抑制されると反動で、かえってそれが意識されてしまう。
注意バイアス
なぜかネガティブな情報ばかりが記憶に残ってしまう傾向。注意バイアスが強くなればなるほど人々の感情も思考も言動もマイナス方向に向かう。
ネガティビティ・バイアス
人は、プラスの側面を扱うポジティブな情報より、マイナス面のネガティブな情報の方が気になってしまうという傾向。メディアでも、ネガティブな話題の方が視聴率につながりやすく、記憶に残りやすいといわれる。心理学者のスノーランスキーとカールストンが「人はネガティブな情報をより重視する傾向がある」
気分一致効果
ネガティブな情報が記憶に残りやすいという傾向があるが、人は楽しい気分の時は楽しい経験や情報を、悲しい気分の時は悲しい経験や情報を、その時に感じている気分と同じ経験や情報は記憶しやすく、後から思い出しやすい傾向も持っている。また、その時に感じている気分と同じ情報に注意が向きやすいという傾向もある。